2026年05月18日 NEW JR九州システムソリューションズ株式会社
〜残業9割減で売上1.8倍を実現したEX(従業員体験)向上。「社員の幸福」と「企業成長」の両立を目指して〜

JR九州システムソリューションズ株式会社は、JR九州グループのIT中核企業として、鉄道インフラの安定稼働からグループ全体のDX推進までを担う、九州屈指のIT企業です。
しかし、そんな同社もかつてはIT業界に根強く残る「長時間労働」や、紙と印鑑に縛られた「アナログ文化」、そして「頑張る人ほど損をする」という閉塞感に悩まされていました。
その空気を一変させたのは、2016年に就任した現社長(2026年5月現在)の「残業をゼロにする」という不退転の決意でした。以来、同社は単なる残業時間の縮減にとどまらない、経営戦略としての「EX(従業員体験)向上」を推進。結果として、残業時間を9割削減(月平均1.5時間程度※2024年度実績)しながら、売上高を30億円から55億円へと驚異的に飛躍させました。
本インタビューでは、経営企画部の皆様と、現場の女性リーダーである松井さんに、その変革の裏側にある「覚悟」と「想い」を詳しく伺いました。
〜「やったもの負け」を「チャレンジ」に変える。社長の“原体験”から始まった、不退転の原則残業ゼロ宣言〜

【現在のEX(従業員体験)向上に取り組むようになった、きっかけを教えてください。】
水城部長:
実は「EX(従業員体験)向上」という言葉を当初から掲げていたわけではありません。取り組みの出発点は、現社長である香月が、2016年の社長就任時に宣言した「原則残業ゼロ」でした。当時は月平均残業時間が20時間を超えており、社内のいろいろなところで不満が溜まっていました。まずは働き方を変えて絶対に残業をゼロにする。その一点からのスタートでした。
【当時、社内の雰囲気にどのような課題を感じていらっしゃったのでしょうか?】
水城部長:
残業が多かった頃は、新しいことに取り組もうとして誰かが手を挙げると、「じゃあ君がやって」とそのまま仕事が投げられ、結局手を挙げた人が損をするというか、「やったもの負け」みたいな言葉を社員がよく口にしていたんですよね。「これでは会社としての活気が生まれない」そう思っていました。
【「原則残業ゼロ」を徹底する際、社内に摩擦や反対意見はありましたか?】
水城部長:
もちろんありました。いわゆる「生活残業」という側面もありましたから、いきなり残業代がなくなると、お金の面で納得できずに辞めていった社員も正直にいうといました。
ですが、残業をゼロにして人件費を減らすということではなく、「残業が減った」=「それだけ社員が効率化を工夫して頑張った」と評価し、浮いた人件費のコストを、しっかり「賞与」として社員に還元するようにしたんです。社員が頑張った分を会社が独り占めするのではなく、社員に納得感を持たせ、還元する仕組みを徹底しました。
【経営陣の揺るぎない姿勢が、社員の意識を変えたのですね。】
カクラ次長:
社長の強い想いの根底には、ご自身の原体験があるんです。お子さんが小さい頃、保育園の送り迎えをしていた時期があり、当時は、定時で退社することに対し、理解されないと感じることがあったそうです。それが、本当に心から嫌だったと語っています。だからこそ「同じ思いは社員には決してさせない」という強い覚悟がありました。現場からは、「仕事に支障をきたすのではないか」といった懸念の声もありましたが、「責任はすべて俺が取るから、残業は絶対ダメだ」という姿勢は最後まで揺るぎませんでした。このトップの覚悟が、現場に伝わり「本当に帰っていいんだ」「じゃあその分どう工夫するか考えよう」という安心感と、前向きに挑戦する空気が生まれていったのです。
〜DXで「非効率」を排除し、スーパーフレックスで「自律」を育む。EX向上が生み出す効果とは〜

【具体的に、どのような仕組みやデジタル化によって「残業削減」と「売上増」を両立させたのですか?】
水城部長:
「残業するな、でも仕事量は同じ」では、現場は破綻してしまいます。そこで徹底したのが、アナログ業務の排除です。以前は紙で印鑑を押して、上司のタイミングを伺って承認の説明に…というのをやっていましたが、コロナ禍を機に一気にシステム化を進めました。今は社長決裁までが一瞬で終わるスピード感です。
人事労務管理システムなどを導入して、入社手続きや年末調整もすべてデジタルで完結するようにしました。そのほかにも、仕事のスケジュール調整や、人が足りないところには外部の人に入ってもらうなど、残業ゼロを前提とした仕事の進め方へ調整や工夫を行っていきました。また、業務改善の提案についても、1人1件、毎年必ず出してもらうようにしています。その中で上がってきた案を採用し、業務改善を継続的に行っています。案を出すのは大変ですが、無理やりでも案を出していくと、意外と知恵が生まれ、それが蓄積されていくんですよね。
【働き方の自由度についても、かなり踏み込んだ制度を導入されていますね。】
香野さん:
制度面では、1時間単位の時間休暇制度に加えて、現在はコアタイムのない「スーパーフレックス制」を導入しています。時間休暇があったため、フレックスは必要ないのではとの考えもありましたが、実際は違いました。例えば経理の場合、月末月初は繁忙で、月の中頃は業務が落ち着いているため、1ヶ月のスパンで、働く時間を調節できます。これが社員から好評です。「今月・今日どう働くか」を各部署の社員一人ひとりが自ら選ぶ自律的なスタイルが成り立っており、当社に非常に合っていると感じています。
カクラ次長:
残業ゼロや休みの取得促進など、当時取り組んでいたことが、「EX(従業員体験)向上」という言葉に集約されることに気づきました。私たちは、社員満足度を「EX(従業員体験)向上」の6つの軸(採用・オンボード、ネットワーキング、ワークスタイル・オプション、ワーク・ライフ・バランス、報酬・リコグニション、キャリア・スキル開発)で整理しており、これにもとづいてEX向上の取り組みを進めています。ある研究データでは、高EX企業は低EX企業に比べてイノベーションが2倍、収益性が1.2倍高いことがわかっています 。私たちの売上1.8倍という結果も、まさにこのEX向上の成果だと捉えています。
【EX向上の取り組みの結果、採用や定着率にはどのような変化がありましたか?】
水城部長:
離職率が劇的に下がりました。2024年度は300人規模の会社で退職者はわずか1名です。以前は忙しすぎて、新しい人が入ってきても現場が「教育する時間がないから来ないで」というスタンスでした。でも今は「どんどん人が欲しい、教えたい」と言ってくれるようになりました。EX向上で「人が辞めない会社」になり、さらに「人が採れる会社」になりました。これにより、受注のキャパシティも増え、売上30億円から55億円という飛躍の大きな要因になったのではないかと思います。
〜オンラインからリアルへの「揺り戻し」は不要。対面を超えた信頼を育む、“聞く耳を持つ”組織の底力〜

【今後の展望についてお聞かせください。】
水城部長:
柔軟な働き方や子育て支援などの環境整備は、社員からもありすぎと言われるくらい、やり尽くした感があるんです。ですので、これからは「キャリア支援」にもより力を入れたいと考えています。
また、世間ではコロナ禍が落ち着き、テレワークからオフィス出社へと回帰する「揺り戻し」の動きも見られますが、弊社ではその必要性は全く感じていません。現在も社員の約6割がテレワークを継続していますが、業務上の支障はないんです。それは、経営トップである香月自身が誰よりもテレワークを実践しているからでもあります。「自分が会社に出てくれば、社員も出てこなければいけないという無言のプレッシャーを与えてしまう」と理解しているからこそ、あえて出てこない。今は「ハイブリッドワーク」として、出てきたい人は出る、必要ない人は出ないという個人の選択を尊重しています。
【離れた場所で働きながら、組織としての統一感や活気を維持できるのはなぜでしょうか。】
水城部長:
それは、弊社に「社員の想いや意見に徹底して耳を傾ける文化」が根付いているからだと思っています。テレワーク主体の環境でも、物理的な距離を超えて「自分の声が経営に届いている」「会社が自分を見てくれている」という実感が社員にあれば、組織としての力は落ちないのではないでしょうか。
カクラ次長:
2024年4月から新人事制度をスタートさせており、今までの年功序列のような制度を排して、若手でも実力と意欲があれば、最低在籍年数に関係なく、スピーディーに昇格できる仕組みにしました。自分の成長をリアルに実感できる組織に変えていけたらと考えています。
人事制度改定に伴い、上司の役割も「管理監督者」ではなく「部下の成長を支援する立場」だと定義し直しました。毎月の「1on1」も取り入れ、その結果、部下から「話をしっかり聞いてもらえる、見てくれている」と、アンケートでも非常に高い評価を得ています。単なる評価の場ではなく、未来の話をする場になったことが大きいですね。
【社員とのコミュニケーションで、特に大切にされていることはありますか?】
香野さん:
社長と全社員が年に1回、直接対面で話す機会があるんです 。AI活用推進や既存施策改善といった要望から「自販機にあのジュースを入れてほしい」といった日常的な要望まで、社長に直接届けられる距離感があります。 。そうやって社員が社長に相談したことが、次の施策につながっています。
水城部長:
社員の声を聞くために、社員アンケートを頻繁にとっています。特に若手社員は、フリーコメント欄に、びっしり書いてくれるんです。アンケートというと、フリーコメント欄には記載がないことが一般的には多いかと思うのですが、社員アンケートの声を社内の施策に反映させているため、うちの社員は「書けば何か会社がやってくれる、変えてくれる」という期待を持ってくれているんです。
この「聞く耳を持つ組織文化」をさらに磨き続け、福岡のIT企業といえばJR九州システムソリューションズ株式会社だと言われるような、選ばれる会社であり続けたいですね。
〜「ライフステージは足かせにならない」。SEからコンサルタントへ、17年のキャリアで見つけた私らしいリーダーの形〜

(女性従業員インタビュー )
【まずは、現在の業務を教えてください。】
松井次長:
私は現在、事業開発本部コンサルティングサービス事業部に所属しています。もともとはSEとしてシステム開発をずっと担当しており、その経験を活かして現在はコンサルタントとして業務に従事しています。単にお客様にITシステムを導入するだけではなくて、お客様が抱えていらっしゃる経営課題や業務上の細かなお悩みを解決するための支援を行っています。
2008年に入社して今年で17年目になるのですが、最初はJR九州の基幹システムの担当からスタートしました。その後、二度の産休・育休をいただきながら、監査部門やJR九州への出向、グループ会社の担当など、かなり幅広い現場を経験してきました。SEとして「作る」立場から、様々な角度でITを支えてきたという自負はありますし、その経験が今のコンサルティング業務にもすごく活きています。
【17年もの間、キャリアを止めることなく働き続けてこられた原動力や、仕事への「思い」について教えてください。】
松井次長:
一番強く思っているのは、「社会と繋がりたい」という点なんです。もちろん子供を育てることも大切ですし、家事も大変なんですけど、それでもやっぱり一人の人間として、個人として、社会と接点を持って自分が提供できる価値を届けていきたいと思っています。そう模索しながらずっと働いてきました。
その他に、働く中で大切にしていることは、大きく3つあります。 1つ目は、周囲の方々への感謝を忘れないこと。どんな時でも、自分一人で働けているわけではないということを念頭に置いています。2つ目は、チームのメンバーやお客様の立場になって考えることです。視点を少し変えるだけで、物事の見え方は大きく変わるので、これは常に考えています。そして3つ目は、これが一番大事なのですが、「自分一人でできた」という風に考えないことです。成果を自分一人のものにせず、チーム全体のものとし、チーム全体で成長することを目指しています。自分一人だけでは限界がありますが、チームみんなで頑張って成長していくことで、仕事の質が高まり、結果的にお客様へ最高の価値を提供することができると信じています。
【プライベートとのオンオフの切り替えは、どのように意識されていますか?】
松井次長:
私の場合は、業務が終わった瞬間が切り替えのタイミングですね。下の子が小学校3年生で学童に行っているんですけど、お迎えに行く瞬間にパチッと切り替わる感じです。お迎えから帰ってきたらすぐに家事が始まりますから、もう暇はありません(笑)。仕事の間は全力で仕事に集中して、終わってしまったら家事と育児に100%集中する、という形で綺麗に切り替わっていますね。
この切り替えがうまくいくのは、会社全体が「原則残業ゼロ」を推進しているおかげです。以前は、自分が早く帰った後も周りがずっと残業していると「何か連絡が来るかな」と気になっていたのですが、今は周りもみんな定時で終わらせる意識になっているので、「みんな終わっているはずだ」と安心して仕事のことを気にせず、オフの時間に集中できます。この心理的な負担のなさは、本当に大きいです。
【女性視点から見た、御社ならではの「働きやすさ」をどう感じていますか?】
松井次長:
一言で言うと、「ライフステージの変化が『足かせ』にならない」ことですね。結婚や出産といったイベントによって、キャリアを足止めされることがないんです。
現在、上の子が高校生で下の子が小学校3年生で、もう結構大きいのですが、それでもやっぱり子供に取られる時間って突発的に発生するんですよね。そんな時でも、勤務時間がスーパーフレックスだったり、テレワークができたりと、場所や時間にとらわれずに柔軟な働き方を選択できるので、すごく助かっています。
今の部署でも、週に一度は「対面で集まろう」と決めて月曜日に顔を合わせていますが、それ以外は柔軟に制度を活用しています。オンラインの打ち合わせでも、顔を見ながら話すことを大切にしていて、それがコミュニケーションの質を保つのに効いているなと感じますね。
【これからの将来像や、次世代のリーダーとして後輩に伝えたい想いをお聞かせください。】
松井次長:
私たちコンサルタントサービス事業部としてはAIをパートナーとして捉え、一緒に成長していきたいと考えています。単なるツールではなく、AIを使いこなしてお客様により良い価値を提供できる次世代のコンサルタントを目指して、日々トレーニングを積んでいきたいと考えています。
また、私自身の「自己開示」も大切にしていきたいと考えています。実は、私自身、社内にロールモデルがいなくて「私はこれからどうなればいいんだろう」と悩んだ時期がありました。それを昨年、JR九州の懇親会で正直に話してみたんです。そうしたら、すぐにグループ全体で近い年代の女性を集めた懇親会を実現してくださって、そこで管理職の先輩女性社員の方々から「自分が自己開示をすることで、相手の自己開示につながり、結果的に周囲も助けてくれるし、道は拓ける」というお話を聞いて、すごく前向きになれました。
今度は私が後輩にとってのロールモデルになると思いますので、後輩たちが悩みも希望も素直に話せるような関係性を築いていきたいですね。
【聞き手所感】
今回の取材を通じて、JR九州システムソリューションズ株式会社様の取り組むEX(従業員体験)向上は、単なる「福利厚生」の延長ではなく、徹底したDXとトップの揺るぎない覚悟に基づいた「最強の経営戦略」であると確信しました。かつて現場に漂っていた「頑張る人ほど損をする、やったもの負け」という閉塞感を、社長自らが「責任はすべて俺が取る」と不退転の姿勢を示すことで、誰もが安心して新しいことに挑戦できる土壌へと塗り替えたプロセスは非常に鮮烈です。「残業9割削減」と「売上1.8倍増」という一見すると相反する成果を同時に成し遂げた背景には、従業員の幸福度をイノベーションや収益性の向上へと直結させる明確なサイクルがあり、深刻な人材不足に悩む多くの企業にとって大きなヒントになるはずです。
ライフステージの変化を「足枷」とせず、社員一人ひとりが自律してキャリアを切り拓き、その「声」が常に経営へと反映され続ける。そんなJR九州システムソリューションズ株式会社様の歩みは、これからの福岡、そして日本の企業のあり方を指し示す、非常に大切な道標になると感じました。



