〜働き世代の健康を支える「看護師」。その看護師の健康・ウェルビーイング(Well-being)を実現しながら、社会全体の健康課題を解決していく~

一般財団法人ウェルネスサポートLabは、「健やかな未来を次世代につないでいく」ことをミッションに、働き世代が健康的かつ持続的に働き続けることのできる社会づくりを目指し、健康増進や予防医学、家事・育児・介護などのケアに関連する事業を展開しています。これらの事業を通じて、社会全体の健康レベルの向上を目指し、少子高齢化社会における健康問題の予防と解決を図っています。今回は代表理事の笠さんに事業への思いとその展望を、フレンドナースとして働く菊池さんにその働き方や将来像についてお話を伺いました。

〜少子高齢化社会のカギは「働き世代の健康」。その健康を支える看護師のウェルビーイング実現を目指す〜

代表理事 笠さん

【貴団体の取り組みやその思いについてお話をお聞かせください】
笠さん:
私たちの団体では、地域の方たち、特に働き世代の方たちが健康であるということが少子高齢化社会の課題を解決するためのキーであると考えています。そして、その働き世代の方たちの健康を支えているのが「看護師」です。看護師は他の職種に比べて、身心の健康が保ちにくく、さらに地方都市の場合女性のライフイベントに関わる負担・負荷が大きく、健康的に働き続けることが難しい状況にあります。そのような看護師の健康、ウェルビーイングを実現しながら、社会全体の健康課題などを解決するために当団体は設立されました。
体も心も社会的にも「健康である」という状態を実現するためには、自分の身心不調などを、疾病になる以前からオープンにすることが大切です。
看護師は、他の職種に比べて中途離職者や精神疾患に罹患することが多い現状から分かるように、身心負荷が大きくその結果、自律神経やホルモンバランスも乱れやすく、健康度が低くなりやすい状況にあります。しかし、看護師の方々は「看護職はサポートする側であり、サポートされる側ではない」という意識が潜在的にあることや、自分が休むことによる周囲への影響などから、自分自身の不安や不調を言い出しにくい状況に置かれています。
だからこそ、当団体では自身の身心の不調を「オープンにする」ということを重要視しています。

【イベント事業として力を入れている「フェムテック」についてお話を伺います】
フェムテック(※1)・フェムケア(※2)という分野にも力を入れたいと思っています。女性は、生理や更年期など、身体的なトラブルが原因で、社会に出る一歩が失われたり自信をなくしたり、という事があり、女性の就労に関する課題だと思っています。女性特有の健康課題に目を向けてもらえるよう、企業に対して、また男女ともに知識として知ってもらえるように事業を行っています。まずは、知ってもらうことが大切だと考えています。
※1 フェムテック(Femtech)とはFemale(女性)Technology(技術)を掛け合わせた造語で、女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスの総称
※2 フェムケアとは女性の健康問題をケアする製品やサービス


【女性の健康課題に関してはどのように捉えていますか?】
女性の月経随伴症状による労働損失が年間4,900億円程度(※1)、更年期による損失が4,200億円程度(※2)と試算されており、合わせて1兆円近い規模であると言われています。生理に関しては、様々な対策がされてきていますが、更年期症状については、まだ対策や知識が不足しており、イライラしているよねと言うことだけで済まされてしまうことが多いと感じています。更年期症状は個人により異なり、症状の重さも様々です。社会全体がこれらの課題に理解を示すようになれば、時間に制限のある女性も含め、誰もが働きやすい職場が広がっていくのではないかと思います。

※1 経済産業省「働く女性の健康推進に関する実態調査2018」
※2 NHK「更年期と仕事に関する調査2021」

【看護師の方のウェルビーイングを目指すためには、どういう点が大切だと思いますか?】
まずは「身心の不調が出やすいお仕事をしている」ということを自覚し、早い段階で不安や不調を声に出してもらうことが本当に大切だと考えています。メンバー間の連絡ツールでは「おはようございます、今日は少し生理痛でつらいです。」など、チャットを通して挨拶と同じレベルで自身の健康状態についてやり取りしています。
「ケアしてほしいから伝える」のではなく、それぞれの状況を知ることで、「ちょっと調子が悪いんだな」「サポートが必要になるかも」という心構えを周りが持つためのコミュニケーションとして、取り組んでいます。

【その取り組みを始めたきっかけは何でしょうか?】
設立当初から、私のところに相談に来る女性のほとんどが健康課題を抱えており、家族のことや、お仕事など、様々なことに起因して身心の不調が現れていると感じていました。その人自身の身心の不調のことだけ話していても、その要因が解決されなければ、希望を持って社会活動できない。身心の不調を解決しながらも、その背景にある社会的要因も解決していくことが、本当の健康につながる、という思いにいたりました。
リアルに限らず、様々な話ができる環境を整えることで、急に休んだ時の引き継ぎやサポートがスムーズになります。個々の状況をオープンにすることで、何かあった時に周りがサポートできる環境につながることを所属看護師の皆さんにお伝えしています。そのための行動指針も作っています。
まず1つ目は今までご説明したように「オープンにする」ということ。身心の状況や、家庭のことも含めて、不調の要因となるようなことは言うように努めましょうということです。もちろん強制ではありません。
2つ目が「フラットでありましょう」ということ。仕事上の役割はあっても上下関係は作らず、責任の分担とその喜びの分かち合いをしましょうということです。日本では、責任を課長などの役職者一人が一手に担うというリーダー像があると思います。女性もそのことを負担や重荷に感じることで昇進を拒むことがあると思うのですが、役職というのは、あくまで役割であり、その役割に応じた責任を自立的に果たしていくこと、つまり「自立分散型の組織」というものを当団体では目指しています。
3つ目が「主体的でありましょう」ということです。どんなことも自分事として捉えて、「あのプロジェクトには、自分は関わっていないから関係ない」ということではなく、当事者意識を持って関わっていくことを行動指針に掲げています。

【行動指針を実現するにあたって、どのような取り組みをされていますか?】
まず従業員側は自分の不安や不調、声なき声を上げる努力をしてもらい、管理側は吸い取る努力をするという体制をとっています。1on1やチームセッション、ミーティングやチャット、教育プログラムを通し、不安や不調があることを前提に、声を吸い上げる努力をしています。
もう1つ、当団体でも推進しており、社会全体でもやってほしいと思うことは、無償労働ケアのワークシェア化です。家事や育児、介護も含めて、誰か1人に負担が集中するケースが多く、また夫婦どちらも正規雇用という家庭も増えている中で、どうやって無償労働ケアをシェア化するのかが今後の社会課題になってくると思うので、無償労働ケアのワークシェア化がどんどん進んでいけばいいなと考えています。
もちろん、家事育児の代行サービスを利用することも可能ですが、所得的に利用できない層もすごく多いですし、家事や育児を人に任せると、「愛情がない」と思う社会的風潮もあり、頼みにくい状況があると思います。ですので、まずは家庭内もしくは近隣の方たちとのワークシェアができるようになればいいなと感じています。

【今後の女性活躍の推進、働き方改革などのために大切だと思うことがあればお教えください】
やはり相互理解が本当に大切だと思っています。男性側からすると「女性の声なき声」は、ないのと等しいという感じていらっしゃるかもしれませんが、「声なき声があるかもしれない」という前提で創意工夫をしながら耳を傾けることが重要だと思います。性別や属性による相互理解はもちろん、性別が一緒であっても、病気の症状には個人差があったり、そこにライフイベントが絡めば全く違うものになったり、誰もが何かしらの不安や不調を抱えているということを理解し合うためには声なき声をいかに拾い上げ反映するのか、、、そのことが管理側の重要な役割だと認識しています。

〜総合病院での思いを胸に、社会を支える看護師の新しい健康的な働き方を実践・応援する~

フレンドナース 菊池さん

菊池さん
【現在のお仕事と働き方を決めたきっかけについてお伺いしたいと思います】
現在は看護業務と当団体で活動している看護師さんのマネジメントをしています。今の働き方を決めたのは、20年間総合病院で勤務していた時に、自分自身が健康的ではないと気づいたことがきっかけです。私だけでなく後輩や先輩看護師も健康的に働き続けられていないと思っていた頃に代表の笠と出会い、「多業種と比較して看護師の働き方は選択肢が少なく、もっと色々な働き方ができるのではないか」と考え、今の働き方を決めました。
私自身、看護師として働くことも好きですが、他の看護師を支える方にも回りたいと考えていました。私よりも看護師として素晴らしい人たちが「もう看護師をしたくない」と言って病院を辞めていく姿を見ていると、やはり悲しかったし、総合病院で管理職として働く中で、看護師の働き方を改善する手だてが見いだせなかったことがすごく苦しかったです。当時は時短勤務や、産休・育休、介護休暇や生理休暇も制度として整えられていましたが、そのような制度があっても、看護師が健康を保ちながら働き続けることはすごく難しいと感じていました。
後輩看護師には、子育てや家庭との両立に悩み辞めていく人もいましたし、身心の不調、うつ病などの精神疾患で辞めていくケースもありました。たくさんの人がもっと大好きな看護師として、健康的に持続的に働くために、選択肢が増えるといいなと思い、今の働き方にチャレンジしています。

【働く中で大切にされていることや心がけなどがあればお教えください】
自分の健康がチームメンバーや利用者の方の健康にもつながっていると考えていますので「オープンにすること」を1番大切にしています。また、同様に一緒に働くメンバーの健康には留意するようにしています。他のメンバーに意識を向けることも、自分が健康じゃないとできない。だからこそ、自分は健康でいたいと心からそう思います。
以前の働き方では、患者さんに対して意識を向けることはできていましたが、働く仲間にはできておらず、自分自身の不調にも気づかないようにしていたと思います。

【現在の働き方、働きやすさについてお教えください】
不安・不調をオープンにできることです。私自身は比較的自分の不安や悩みを周りに話している方だったと思いますが、以前の働き方ではオープンにしにくかったし、後輩や先輩を見ていると、「言っても仕方がない」と諦めたり、我慢したりしている人も多く、それを管理者として知った時の悲しみもありました。なかなか対策が打てないことも、自分自身の力量の無さを感じていました。
ですが、当団体では自分の不安・不調をオープンにできますし、また、自分が健康でいることが全ての人の健康につながるということを実感できます。それが働きやすさの1つだと考えています。

【社会課題と感じていることがあればお教えください】
生活の中で、女性が担う無償ケア労働がすごく多いと思っています。そこに会社で働くことが+αとして加わったときに、働きにくさを感じるのではないかと思います。
看護師の仕事の中で、患者さんを健康な状態に回復させる過程で「療養環境を整える」「いつもと違うことに気づく」ことが重要なのですが、家族の健康をマネジメントするうえでも、このことが重要だと思っています。このようなことが無償ケア労働に含まれているのですが、このことを家庭内で担うのが1人しかいないということは、すごく大変だと思います。

【将来像について】
たくさんの人に心地よく暮らして欲しいと思っているので、当団体の思いである「健やかな未来を次世代につなぐこと」「不安不調を前提に人と関わる」もっと言うと「不安不調をオープンにできる社会づくり」の重要性をもっと広めていきたいと思っています。看護師の方々には、病院に勤めること以外に、働き方の選択肢の1つとして、広く知っていただけると嬉しいです。

【聞き手所感】

今回のインタビューを通じて、看護師という職業が直面している困難と、それに対するウェルネスサポートLabの取り組みの大切さに強く感銘を受けました。特に、看護師自身の健康を守るためのアプローチは、単なる職場環境の改善を超え、社会全体の健康意識向上に貢献していると強く感じました。また、お二人の熱意と看護師という職業への深い愛情も伝わってきました。女性だけでなく、全ての働く人々が健康であることの重要性を再確認させられる内容でした。貴重なお時間をいただきありがとうございました。

会社概要

一般財団法人ウェルネスサポートLab

福岡市中央区渡辺通2-9-20-1103

代表理事 笠 淑美

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