福岡市の男女共同参画

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イオン九州株式会社 執行役員 人事教育部長兼ダイバーシティ推進室長 工藤洋子様

 

多様な視点で,企業を変化,成長させたい

荒瀬)御社のダイバーシティ推進室はいつからあるのですか。

工藤)2016年3月に発足しました。

荒瀬)工藤さんが初代の室長さんということですが,イオンさんでは,いつ頃から女性活躍を推進されておられるのですか。

工藤)イオングループ全体としては,2013年の下期にダイバーシティ推進室を発足し,そこから動き出しました。

荒瀬)ダイバーシティ推進のキーポイントというか,どのようなところに主眼を置かれているのですか。

工藤)ダイバーシティは本来多様性ですから,女性活躍だけにスポットを置くわけではありません。イオン本社はアジアや中国に進出していますので,当然,外国籍の方たちなどの多様性を生かした経営をしていかないと立ち行かないというところがあると思います。イオン九州では、顧客、市場自体がすごく変わっていく中で,過去の成功事例が阻害要因になることに対して,トップは一番危機感を抱いています。若者や女性などいろいろな視点で、物事を「捉え」「考え」「発言」し、変えることが企業の「力」となり,成長につながります。これが、ダイバーシティの一番の主眼です。

 働くメンバー自体も,いままでのような辞令1枚で九州どこでも行きますという人たちだけではありません。子どもさんを抱えて働く人,何らかの身体的,メンタル的なハンディキャップを背負っている人,我々の世代であれば親の介護をしている人など。そういう中で,今までみたいな働き方では無理だということに気がついて,働きやすい環境を整えていかないと,会社として継続できないところがあります。

 

上から変わらないと進まない,管理職以上の全員がイクボス検定に合格

荒瀬)日本全体が少子高齢社会ということで,時代が大きく変わっていく中で,行政も企業も新たな対応が求められてきたのだと思います。イオンさんがダイバーシティを推進するにあたって,自慢できるのはどういうところですか。

工藤)弊社のトップが「ダイバーシティをやらないとだめだ」と,はっきりとメッセージを発信していることですね。

荒瀬)やはりトップの姿勢はすごく大きいですね。

工藤)はい。まず上から変わらないと進みません。私が去年3月に着任して,まず部長,店長の上層部に教育を行いました。会社がいくら発信しても,店長がその気にならなければ「うちの店長は違う」となり,口先だけと捉えられてしまいます。だからこそ,まずは部長や店長が必要性を認識して,変わらなければいけません。去年からは,ファザーリング・ジャパンの「イクボス企業同盟」にも加盟しました。12問から13問ぐらいの簡単な質問に答える「イクボス検定」があるのですが,弊社では,さらに項目を加えた検定を実施し,管理職である課長職以上,店でいうと店長とその下の課長,本部のほうは部長とマネジャーは全員合格を目指すという目標を立て,去年達成しました。

社長も新入社員も,階層別に5つのコアチームを結成 

工藤)また,階層別に5つのチームをつくりました。社長,それから取締役を変えようということで「経営者」,部長・店長の「管理職」,次に課長やマネジャーになる中堅のメンバーによる「管理職候補」,ママである「育児勤務者」,入社2年~3年ぐらいの「新入社員」,以上「5つのコアチーム」がダイバーシティを推進していくにはどんな課題があって,自分たちは何に取り組んでいけばいいのかということを2014年から3年間,課題を出しあって活動をしてきました。このことは,弊社としてダイバーシティを進めていく上でのキーポイントだったと思います。

荒瀬)一番大事なところですね。以前,エイズ予防に重要な性教育を導入する際に,まずは校長会で全校長にお話しし,その次は全教頭,主任にと,学校別ではなく階層別に説明していったことを思い出しました。

コアチームの提言で中学生までの短時間勤務が可能に

荒瀬)家族形態がすごく変わってきているので,介護や育児の問題もありますよね。

工藤)弊社の従業員は,パートタイマーさんを入れると女性の比率がたいへん高くなるのですが,正社員に限ると女性の比率は約35%,女性管理職の比率が11.5%です。入社したときの男女比は,この2~3年は女性が6割,男性が4割,高卒では女性7割,男性3割で,女性が圧倒的に多いのですが,10年,15年経った段階では結婚や育児を理由に,女性が辞めてしまうので,女性約35%,男性65%ぐらいになります。

荒瀬)介護もありますね。市では介護の相談を,仕事帰りやお昼休みにできるよう昨年7月に,「働く人の介護サポートセンター」を天神(本庁舎の地下1階)に開設しました。

工藤)ポスターを送っていただき、ありがとうございました。仕事を辞めずに介護も続けられないか,模索する時に相談できますね。

荒瀬)ある程度専門家の力を借りれば,心にゆとりができ,優しく接することができます。育児も同じです。仕事の形態によって必要な保育時間が違いますので,市では企業内保育所の設置もお勧めしています。

工藤)弊社では糟屋郡志免町と大野城市の店舗で,企業主導型保育所を設置する予定です。また,女性社員は産前産後休暇取得後、子どもが3歳まで育児休職をとることができます。育児勤務者に対しては,子どもが中学生までは転居を伴うような転勤はなく,基本は8時間/日ですけど,5,6,7時間の短縮勤務も認めています。

荒瀬)中学生までとは,すごいですね。

工藤)短時間勤務については法律上,「小学校就学前」までが事業主の努力義務となっています。弊社は,以前は小学生まででしたが,昨年「育児勤務者」コアチームのメンバーから,中学生まで認めてほしいとの要望が上がって,会社として認めることになりました。

 

「管理職は楽しい」と伝えたい

荒瀬)工藤さんは若くて管理職になられていますが,管理職というポストでは,いろんなことを学べますよね。

工藤)女性の管理職を増やすに当たって,女性だけではなく,男性の若手も含めて,40%強が「管理職になりたくない」って言うんです。「見ていると大変そう」と。しかし,課長になった者に聞くと「大変だけどやりがいがあります」と。思っていた以上に自分の自由裁量があって働きやすいと言います。職位が人を育てると言うように,上のポストに上がれば視座が高くなり、視野が広がります。「責任は重くなるけど,やりがいも増えて楽しくなるんだよ」と伝え,意識を変えていかないといけないんですよね。育児勤務の人や女性,若手が管理職になっていくという多様性の中で,課長という管理職はいろんな人が務められるんだよと,早く下のメンバーに理解してもらいたいなという気持ちです。

 

ママは「ワンオペ」,パパを早く帰して

荒瀬)では最後に,行政に期待したい課題はありますか。
工藤)
保育所をたくさんつくっていただきたいのはもちろんですが,今,社内では「ワンオペ育児」という言い方があります。パパの帰りが遅いので,家事と育児をママが一人で担っていることだそうです。幾ら保育所を完備して,女性が働いている企業に理解があっても,ご主人の会社が「そんなの嫁に任せときゃいいじゃないか」となれば,ママはワンオペとなり潰れてしまいます。結局「パパを早く帰してくれ」ということですね。少子高齢化の中で日本の企業がずっと経営を継続していくためには,パパが育児にかかわれるような環境を全ての企業で整えないと厳しい気がします。

荒瀬)社会全体で男女共同参画を認識し,経営者のいろいろなネットワークで,共通課題として社会全体で子育てを支えていく取り組みが必要だろうと思います。

工藤)男性社員が育児休暇をとりたいということに対して,上司は「それは休まないかんばい」と思っていますし,周りも「とりなさいよ,よかったね」という感じですが,むしろ本人が育児はしたいけど帰れない,育児のことを言ったら出世が遅れるのではないかとか思っていることが多いです。その意識をどう変えるかですね。

荒瀬)育児休業や育児休暇をとった男性が管理職になり始めると,不安は払拭されるのでしょうが,実際には,まだ管理職にはなられてないですよね。

工藤)課長では少数しか取得していないですが、管理職以外で制度を利用する人は増えています。そのメンバーたちがまだ40歳前後ですから,あと5年経って課長、店長、部長のポストにつけば,子どもが産まれたら育児休暇をとって,ワーク・ライフ・バランスをとりながら次の管理職になっていくんだよねと,当たり前になっていくと思います。

荒瀬)早くそうなるといいですね。

 

働くママさんのネットワークで,復帰前から情報発信

工藤)今年の課題は,働いているママさんたちのネットワークづくりです。先輩ママさんたちから産休中のメンバーに,復帰した時に,ばたばたしなくてすむよう事前に準備しておくと役立つ情報を伝えてもらいたいと考えています。福岡市は育児に関して手厚いと思うので,市からも子どもを産む前の人たちや,若い人,結婚していない人にも「福岡市は子育てにはすごく便利なまちなんだよ」という情報を発信してもらえるといいと思います。

荒瀬)子育てに関する情報を集めた「子育て情報ガイド」という冊子を市のホームページでも見ていただけますので,ぜひご利用いただければと思います。市としてももっと期待にそえるように頑張ります。今日はありがとうございました。


執行役員

人事教育部長 兼 ダイバーシティ推進室長 工藤 洋子様

昭和56年4月入社

江北店,大村店,宮崎店,香椎浜店の店長,南,中福岡事業部長を経て,

平成28年3月ダイバーシティ推進室の初代室長に就任

平成29年3月より現職

 

会社概要

社 名:イオン九州株式会社
住 所:福岡市博多区博多駅南2-9-11

創業年:昭和473月(1972年)

業 種:小売業

業務内容:GMS(総合スーパー)事業

 九州内で「イオン」「イオンスーパーセンター」「ホームワイド」「ワイドマートドラッグ&フード」「イオンバイク」を運営。

URL:http://aeon-kyushu.info/

○社員数:16,388名(男性4,562名,女性11,826名)(うち正社員 2,404名)

○女性社員の割合 :72.2

○女性の管理職比率:11.5

○有給休暇取得率 :25.4

(平成28年7月現在)

女性活躍やワーク・ライフ・バランスの主な取り組み

・「ふくおか女性活躍NEXT企業 見える化サイト」掲載

  https://danjokyodo.city.fukuoka.lg.jp/mieruka/companies/detail/130

・“「い~な」ふくおか・子ども週間♡”賛同

  http://i-na-kodomo-shuukan.city.fukuoka.lg.jp/companies/detail/784

・女性活躍推進法認定「えるぼし」マーク(3段階目,最高ランク)取得 (2016) 

・次世代育成支援対策推進法認定マーク「くるみん」取得 (2016)

・パートタイム労働者活躍推進企業表彰受賞(2016
・福岡県子育て応援宣言企業登録 (2006)


▲女性活躍推進法認定「えるぼし」マーク

3段階目,最高ランク)取得(2016)