福岡市の男女共同参画

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有限会社ぶどう畑 代表取締役 新開玉子様


女性が中心となって始めた農産物直売店は,全国に広がりました  

新開)先日,私を含め7名が,市から女性農業者の活動を支援する「福岡市女性未来農業サポーター」の委嘱を受けましたが,今日はその第1回目の会議でした。

荒瀬)福岡市の農業支援をよろしくお願いします。これから,日本全体が少子高齢化で,人口動態が非常に大きく変わります。

新開)昔はうちの庭も,まるで子ども会のように子どもたちが集まっていました。

荒瀬)時代は変わりますが,キーパーソンは,ずっと女性でした。女性がどういう社会をつくっていくかが大事になってくると思います。

新開)副市長さんのように,女性のリーダーがもう少し増えてほしいですね。そうすれば女性の意見が通じます。男女平等とはいえ,男性に見える部分と女性に見える部分は違うと思います。従来,農業は男性主導で,女性たちは日陰の身でしたが,女性が中心となって無人の売り場から始めた農産物直売店は,全国に広がりました。まさに「女性の力」ですね。「誰にも頼らず,自分たちの力で少しでも自由になるお金を工面する」,そういう思いから見出したものが農業の流通の一部分を担うようになったのだから,女性はすごいなと思います。

荒瀬)本当にそう思います。

 

平日の昼間は子育てママ,土曜日はシルバー世代が活躍

新開)ここは都心部なので,農家は点の存在です。でも,スタッフ・パートさんは幼稚園児がいるママも多く,平日午前9時から午後2時までという勤務の希望も多いです。ですので,土曜日は私たち6070代のシルバー世代が農場で頑張っています。歳をとっても1週間に1回,社会と関わりを持つのと持たないのでは大きく違います。だから「うちの会社は世代間交流ができていいよ」なんて言っているんですよ。

荒瀬)生涯現役で,すばらしいと思います。

新開)働き方改革のお手本ですよね。農業は歳をとっても定年はないし,子どもが小さいうちは,やっぱり家のことも大事ですから。

荒瀬)女性の方がリーダーだから,わかっておられるんですよね。

新開)そうですね。今,1人が産休中ですが,彼女には「育休はしっかり取っていいよ」と言っています。妊娠している人もいますが,周りが女性ですから,みんなでかばってあげたり,優しくできたりしますね。

 

一番の苦労は,みんな嫁だったこと

荒瀬)苦労もおありになったと思いますが。

新開)最初,「直売店をする」と言うと,「あなたが直売店を始めたら,うちはどうなるの」と夫の両親に反対されました。思い立ってから12年半待って,ようやく夢をかなえましたが,今は両親にすごく感謝しているんですよ。

荒瀬)反対されたご両親ですね。ご実家は農業をされていたのですか。

新開)もともと農家の生まれですが,若くて嫁いで来ましたから,夫の両親に鍛えられて一人前になりました。最初の10年は,いつ家を出ようかと時期を狙ってました。昔はみんな嫁は苦労していて,そういう仲間が集まって,「ぶどう畑」を始めました。これからの人たちは,まずは経営が成り立たないと後を継がないでしょう。

荒瀬)経営まで考えてあるところがすばらしいと思います。

新開)私たち農家の嫁が知恵を出し合って,ハト小屋みたいな場所で直売店を始めました。今でも,その原点は野多目に残しています。夫たちに「そんなはした金」と言われましたが,私たちはそのわずかな収入がうれしくてしかたありませんでした。私が持って行く巨峰をお客さんが「わあ,明日も来てね」と言ってくださるから,お金じゃなく,心がワクワクして,また行きたいんですね。そうしてへそくりが貯まって,この店の土台になったんです。介護しながらの仲間もいましたが,塵も積もればで,6人で集めた資金1,260万円。補助金を受けずに平成11年「ぶどう畑」がスタートできました。

荒瀬)やっぱり昔の女性は鍛えられて,強いですね。

 

農業をしたい人ができる社会に

新開)農家は70代が最も多く,その世代が今の日本の農業を頑張って背負っています。この70代がリタイアしたら日本の農業人口は激減します。これからは,やり方をがらりと変えて,農家でない人たちに農業に加わってもらい,農業をしたい人ができる社会に変えるべきかなと思っています。

荒瀬)子どもたちも,農業に魅力を感じてもらいたい,時代とともに新しい農業をしていくという夢を持ってほしいなと思います。

新開)明後日には,小学2年生の子どもたちがハウスに見学に来ます。校区の小学校や幼稚園には長年,主人と出前授業に一緒に行っています。小学校の中庭を田んぼにして,お米を植え,稲を刈って,そのわらを使って正月のしめ縄づくりまで教えています。

荒瀬)すばらしいですね。

新開)農業は,きつい,つらいといったイメージが強いですが,昔は昔として,私たちの代からは,しがらみや昔の習慣を引きずることをやめようと頑張ってきています。そのせいか,意外と若い人が農業をしようという気にはなってきているように思います。この「ぶどう畑」の取組として,農場部門,厨房部門と売り場(市場部門)と三つを連携させていますので,野菜は最後まで使えます。

荒瀬)ずっと循環していますよね。

新開)厨房では,売り場の野菜を使って調理します。また,農場では求められるもの,普通の農家が作らないようなものを栽培します。今日持参したレタスは,お子さんたちが元気になるようなものを作ってあげたいなと思って無農薬で育てました。ハウスに入る時は,必ず履物をかえて,キャップをかぶります。

荒瀬)普通,無農薬野菜には,いっぱい虫食い跡があるのに,このレタスは無農薬とは思えないぐらいすごくきれいで,感動しました。



新開)
無農薬と言っても虫食いがあったら避けられます。若い人は,水耕栽培などきれいなところから農業に入らないと,きついところから入ると厳しいようです。私たちの頃は機械もなく,田植えは腰が痛くて大変でした。機械を使うようになって,これなら女性でもできるということになって,農業が楽しくなりました。これからの農業は男性でも女性でもできると思います。

 

お弁当は食べ切りサイズ 地域の見守りもできます

荒瀬)先ほどお店で,お客さんが「ここに通えるのがいい」と言っておられたのが聞こえてきました。皆さん集まってこられているようですね。ここにはベンチがあるので,お弁当を買って食べられますね。

新開)はい。お昼からはそういう方がいっぱいです。お友達同士とか。

荒瀬)そういうのが大事かなと思います。ベンチがあると,ちょっとお話したり,人とコミュニケーションがとれますよね。福岡市でも,今,公園やバス停付近にベンチを置く「ベンチプロジェクト」を進めているところです。

新開)うちで販売しているお弁当の中には,ひとり暮らしのお年寄り用として食べ切りサイズのものがあります。よく売れますよ。しばらく店に来られない方に,「どうされたの」と聞いたら,案の定,入院していたとか,転ばれたとか。だから,地域の見守りもできます。お年寄りの栄養失調が案外多いですね。「何もつくりたくなかったけん,食べてなかったら,救急車で運ばれて,栄養失調と言われた」と聞くと,「ここに来るのを目標にして何か食べないとね」と,お肉などを勧めたりします。「このごろ元気になったよ」と言われると嬉しいですね。

荒瀬)やっぱり食は大事です。介護保険制度が始まる頃,市でお昼の配食サービスを始めました。1食食べてもらうだけで全然栄養が違います。苦労したことが食べ残しでした。食べきりの量で配食をすることはなかなか難しかったです。

新開)うちでも,配食サービスの要望が多いです。

荒瀬)かしわ飯がすごくおいしそうだったから,お年寄りも喜ばれますね。

新開)おかげさまで,ご好評いただいております。月曜日は「寿司の日」で,巻き寿司,いなり,ちらし寿司をつくります。

荒瀬)日替わりはいいですね。寿司が食べたいときは月曜日に行くとか。

新開)お年寄りが「月曜は行かなくちゃ」と言って楽しみにされています。帰りはタクシーで帰る方もいらっしゃいますが,「お金は自分のために使いましょうよ」とお声かけしたりします。

荒瀬)そう,自分に使わないといけないですよ。

新開)自分に投資して元気に暮らして,1日でも子どもに面倒を見てもらわずに,最期だけお世話になる,そうありたいと思います。

荒瀬)今日はお会いできてよかったです。今後ともよろしくお願いします。



 

有限会社ぶどう畑 

代表取締役 新開 玉子様

女性農業者の法人起業が少ない中、都市圏に農産物直売の有限会社を設立。農業者と消費者の架け橋となるべく活動され,また,地域の食農教育活動にも熱心に取り組まれている。

・平成11年 有限会社「ぶどう畑」設立

・平成14年 第1回福岡県男女共同参画表彰(県民賞)受賞

・平成15年2月~平成17年7月 農林水産省の「食料・農業・農村政策審議会」の公募委員

・平成17年 男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣賞 受賞

・平成18年3月~平成24年3月(3期6年間)福岡県男女共同参画審議会委員

・平成2810月「福岡市女性未来農業サポーター」委嘱

 

農産物直売店「ぶどう畑」の概要

住 所:福岡市南区中尾2-1-1

出荷者:九州内外の農業者,直売所,生産者グループ,市町村など

   (季節,商品によっては,一部市場より調達しています)

商品構成:農産物,加工品,惣菜

URL :https://www.budou-batake.jp/